スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--.--.-- | | スポンサー広告

或る風景 (6)

P6.jpg

12月に入ってからの街じゅうの、どこの店にいっても飾られたツリー、流れるリトル・ドラマー・ボーイだのウィンター・ワンダーランド、楽しげなカップル、木々に付けられたライトアップ。

25日迄は、ずっとこんな騒ぎが、何か楽しい事があるんじゃないかという、理由(わけ)のない予感とともに続く。

そんな予感も、クリスマス・イブが近付くほど、「違うんじゃ・・・」という思いで打ち消されて行く。

そして「やっぱり、何もない」と、25日の朝に思い至る。
ああ、今年のカレンダーがクリスマスが土日でなくて良かった。一人の部屋でも、TVを付ければ嫌でもクリスマスって分かるんだもの。だったら、仕事してた方がいい。


さ、仕事。真依は身支度を整え、家を出た。



輝明は、起きるには起きたものの、ひどいふつか酔いだった。昨日は飲み過ぎた。んー、いいや。会社行ってもこりゃ、無用の長物だし生ける屍、多勢に無勢。今日はずる休みしちまえ。

しかし、女の子の居る店に俺は今まで一体幾らをつぎ込んだんだろう。騒いでる時は楽しいけど、思うに俺が楽しませてるんじゃねえか。それで大金はたいて、あー馬鹿だね俺。もうやめよう、こんな遊び方は。

会社に電話掛けるには、ちょい早いな・・・薬でも買って来るか。

駅前では勤め人が、皆同じ方向へと急いで歩いている。
あー、見てるだけで気持ち悪くなりそうだ。って、俺もいつもはあの波の中に混じってるんだよなあ。ま、今日は部屋で俺、のんびりさせて貰うさ。




「ね、先月のそれ、朝8時だったんでしょ?きっと私、そこにいたと思うんだけど」
「知らないよ、分かるわけねーだろ」
「薬ばっかり色々飲んで、忘れてるんじゃないー?」

輝明には、分かっていて聞いてしまう。こんな他愛ないことを聞ける日が来るなんて、1か月前のクリスマスの日には、思いもしなかった。



言えるもんかよ。ドラッグストアで「よーく効くふつか酔いの薬、下さい」って言ってレジにいたお前と目が合った時に、ふつか酔いが消し飛んで立ちすくんだ事なんて。

「さ、行こうか」輝明は、コーヒー2杯の伝票と、先週買ったジムニーのキーを手にすると、立ち上がった。

スポンサーサイト

2005.12.25 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

或る風景 (5)

P5.jpg

僕は、昨日からパパ、ママって言うのをやめた。
だってさ、もう上級生なのにパパ、ママなんてかっこ悪いよ。まだ、慣れないけどね。

昨日、給食の時に、皆が「サンタクロースは居るのか居ないのか」と話してた。あれは作り話さ。僕は知ってる。僕らに「何をお願いするー?」と父さんか母さんかが聞いておいて、僕らに分からないように街に行って買ってくるのさ。
だから、僕が携帯電話がいいなって言ったら、お父さんが「サンタさんの国には携帯電話は無いかもしれないなー」って言ったのも、「ちぇっ、買ってくれないのか」って思った。

「あら、何でママって呼ばなくなったの?」
朝、学校に行く前にママが不思議そうに笑って言ってたけど、理由は説明できないな。だって、ママはママのままでいいけどパパはお父さんって言うのは変でしょ?


僕はおととい、見たんだ。友達に付き合って、街にバスで行った帰りに。お父さんが、お母さんより背の高い人と、一緒に歩いてるのを。
この間、僕がお腹痛くて早く家に帰った時にお母さんが家で泣いてたのは、お父さんのせいだ。


夏休みに、お父さんの会社の人が「お父さんはなー宮本武蔵みたいな人なんだぞ ボクはいいなあ 頑張れよー」って言ってたけど。あの人は知ってるのかなあ、宮本武蔵は遅刻して勝ったんだよ。遅刻して勝ってもズルいじゃん。

ウチのクラスの女子で、あのお母さんより背の高い人よりもっと美人になる奴がいるのかなあ。あゆみちゃんならいけるかな?んー、全然想像できないや。

「あした、朝早く学校に来て」ってあゆみちゃんが言ってたのは、何だろう。僕は何となく分かってる気がするんだ。本当にそうかは分かんないし何て答えたらいいのかも分かんないけど・・・


「Y君!」学校の近くで、背中から声を掛けられる。あゆみちゃんだ!笑ってるようなまじめなような、ごちゃごちゃな顔になって、僕は回れ右をした。僕みたいな顔したあゆみちゃんがいた。

2005.12.23 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

或る風景 (4)

P4.jpg

金曜の朝、5時。ぶ厚い革ジャンを着てアパートの階段を降り、いつものオートバイに跨った。イグニッションキーを捻ると、一部をメッキされたサイドカバーで覆われたキャブレターから送り込まれた混合気が、プラグの放電とともに水冷ツインカム4気筒エンジンを力強く胎動させ、その爆発はヨシムラの集合管から野太い音を解き放つ。ヘルメットはアライのラパイドと昔から決めている。あご紐を締め、グラブをはめ、まだ明けきらない街へ走り出す。なめらかなエッジの多角形をした赤いガソリンタンクの上面には、右にオフセットされた航空機タイプのガソリンキャップがあり、その左には夜明け前の空が映り込んでいる。丸目単眼のヘッドライトが前方を照射し、その反射光が砲弾型の2連メーターを縁取る。59馬力の400ccエンジンは、左足をかきあげるたびに非日常へとスピードを上げる。

信号待ち。左車線に、スーッと黒いセダンが止まる。視線を感じてチラと見ると、こっちを見てニヤニヤしている。車高の低さとメッキの多さで、歓迎したくない人種だと感じ取る。
青。猛然とダッシュする。脳が後ろに持ってかれる錯覚を覚える。白いタコメータの中で赤い針が12,000rpmへと瞬時に飛び、シフトアップ。右ミラーを見る。小さく映っているが、もう何の事はない。バイバイ。

1時間と少し走って、到着。少し街を離れた、高台。

「お前が被ると、首がいっそう細く見える。頭が、重そうだ」
そう笑われたな。ふと思い出しながらエンジンを止め、藤浦雪乃はヘルメットを取る。もう4年になる。

あれ。花が供えてある。誰?分からない。まあいい。
次郎のお墓の前で、雪乃は静かにひざまづき、手を合わせる。


じろー?


---様々な、郷愁と悔恨が入り混じった気持ちが、湧き上がって来る。


最近ね。色んな事、思い出せなくなってる。
あんなにたくさん、あったのに。

・・・ごめん。


また、来る。
そう心で呟き、静かに立ち上がる。駐車場へ戻ると、深緑色の大きなセダンの傍らに河相が立っていた。

「藤浦さん」
「ごめんなさい。今は、」


ありがとうだなんて、心でしか言えない。雪乃はバンディット400に跨り、ヘルメットを被ると一礼をして、国道へ走り出た。

2005.11.23 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

或る風景 (3)

P3.jpg

特段何の用事もない土曜日。Yは、横になってTVのデイゲームの野球中継を、見ることもなく見ていた。台所から、妻が息子を叱る声と、その合間に自分に向かって話すのが聞こえて来る。けれどYは、最近自分と会おうとしない優子の事とか、仕事の事とかを考えつつ、ちょっと空耳で相槌を打っていた。

「あたしサ、前にイギリス行ったじゃん」
「あぁ」
「あれでサ、献血しちゃいけないってなったみたいなのよ」
「へぇ、どして」
「どうしてかしらね、でも1980年以降イギリス滞在が1日でもあったら、ダメなんだーって言ってたよ」
「あー、そうなのか」
お、打った打った!これで同点だ!偉いぞー。
「あたしサ、自分が役に立つって事なかなかないからサ」
「え、あ、うん」
よし!きわどいけどボールだ。良く見たぞ。
「何かこう、やっぱりあたしは駄目なんだーって思っちゃった」
よし!フォアボール。1・3塁。チャンスは続いてる。
「いや、そんな事ないだろうよ」

日曜日、朝寝坊したYは、高学年になってクラブ活動を始めた息子のための買い物をする妻と横浜駅で待ち合わせた。家を出るのがちょっと早かったな。待合せのお昼迄、1時間弱ある。

どうするかなー。駅の外を何気なく見回したYの目の前では、献血車と、献血にご協力をお願いしまーす!と大きな声で呼びかける青年が何人か居た。


献血って注射だろ?痛いだろうな、面倒くさいな。
けどあいつ、昨日はしょげてたなあ。
よく覚えてないけど、月に何度かの献血する日は、とても嬉しそうにしてたもんなあ。

・・・これからは俺が代わりに、献血しようじゃないか。痛いのなんて一瞬じゃないか。


あいつには黙っていよう。そう思いながら、Yは献血車に向かって歩き出した。

2005.06.14 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

或る風景 (2)

P2.jpg

今夜は、後輩の雪乃が頑張って予約してくれた赤坂のイタリアン。奮発した赤も、柔らかい牛ヒレも、お店の雰囲気も、みんな良かった。「この次は、あすこにしようね」雪乃にそう言って、美保子はバイバイと手を振り、駅へ向かった。



部屋へ帰る電車の中、美保子の目の前は座れそうで座れない席。酔いツブれたおやぢサラリーマン氏、2人分のスペース使ってるよ。後ろの窓に持たれかかった脂ぎった顔。口元はだらしなく開き、涎が垂れかけている。緩めたネクタイは結び目のところなのだろう、黒く変色している。ツンツルテンのスーツと靴はどう見ても安物だ。おやぢ氏、携帯電話を握り締めてる。あーあ、いびきまで始まっちゃった。

・・・ヤだなあ。汚いなあ。



ブルブルブル・・・あ、アタシだ。美保子は電話に出る。アイツだ。
「ごめん、今電車だから」
「うん、明日ね。9時に来てね!嬉しいよぉ」
「うん・・・んもぅ、バカねぇ(笑) んじゃーねっ」
パカッと携帯電話を折りたたみ、あらためておやぢ氏を見やる。

・・・アイツもいつか、こうなるのかな。



おやぢ氏の携帯にフと目が止まる。子供の笑顔の、写真が貼ってある。

・・・あんた、家族の為に頑張ってるんだね。
・・・その安そうなスーツも靴もネクタイも、きっと、だからそうなんだね。
・・・あんた、おしゃれなとこ食べに行かなくても、気の利いたとこ出かけなくってもいいんだね。
・・・帰ったらきっと、その子が寝てるのをそっと見届けるんだね。

あんたは、ちゃんと歳をとってるね。
アタシは違う・・・ただ老いてってるだけかもだ。



その頃、いたずら坊主のような笑顔で、助手席のグローブボックスにアイツが星のような指輪を忍ばせてる事を、美保子は知らない。

2005.04.16 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

或る風景 (1)

P1.jpg

彼の職場には、5つ下の年の後輩がいる。名前は優子。

3年前、優子と彼は少しいい仲になりかけ、しかし男女の行き着く先に行く前に何となく終わった。一度、冗談のようなキスをしただけだった。

「たまには、飲みに行きません?」
金曜の夜。特に用事も異論もなかった。青山一丁目の交差点で、夕方6時に待ち合わせ。地下鉄から地上に出ると、昼間降ってた雨は上がって、なま暖かい春風が、ふわりと顔を撫でていった。

半年前にオープンしたその店は、想像したとおりのいい雰囲気だった。シャンパンはモエを頼み、乾杯。料理は和風創作料理である。大きなカウンターの向こうには、高層ビルの窓。その向こうには、街灯りが広がっている。空の色が刻々と青から紫へ、夕景から夜へと変わってゆく。

モエが終わり、フル・ボトルの白。映画の話、酒と料理の話、職場での出来事、Banglesの復活とここ何年かの再結成ブームについて、ラフマニノフとショパン。料理はことのほか美味しく、金曜の夜ということがリラックスを助長し、口調をいつもより滑らかにしてゆく。

「ねえ」
「ん」
「最近私、Yさんに良く誘われるんですよ」
「そうなんだ、そうかあ」 Yは彼も知っているヤツである。
「悪い気もしないしいい人だし、最近ちょくちょく飲みにも行くんです」
「ふーん、そかそかぁ」
「明日、実はドライブに行くんです。伊豆の温泉行ってみようかって」
「そかあ、へえ」
「ね、聞いててイヤ?」
「ん?俺は何も言わないし、言うべきでもないよ」
「ふーん、言わないんだ」
「フリー・コメントとしてなら、言うかもだ」
「何、言ってみて」
「俺、3年前に君の前から遠ざかったろ」
「うん」
「それからそのままだけど、優子さんを少し知ってて尊敬もしてるつもりだ」
「うん」
「あいつは、奥さんも小学2年生と幼稚園のお子さんもいるよ」
「うん、そうだね。でもいい人なんだよ」
「そりゃあいつはいいヤツさ。でもな、優子さん。あいつがもしも好意を伝えてるとしてだ」
「うん、うん?」
「ヤツの誕生日は一緒に祝えないかもだし、クリスマスは子供にプレゼント抱えて帰る訳だよ、盆暮れは田舎に帰るしなあ」
「うん、まあ・・・」
「奥さんが洗ってアイロンかけたシャツを着て、もしかしたら一緒にデパートで買ったかも知れないスーツ着て、奥さんが磨いた靴履いて、奥さんの作った料理を毎日食べて暮らして、そして優子さんに好意を伝えるんだよ」
「うん・・・」
「今夜は飯は要らないと家に電話してから、逢うのかもだなあ」
「ん・・・」
「そしてああ疲れた疲れた、今日は寝るーつってシャワー浴びて寝るかもだ、奥さんと同じ部屋で」
「意地悪ですね」
「そんな状況の優子さんを見たくなくってそう言ってるのかもだけどね、俺も」



会計。店を出る階段を上りながら、前を行く優子はふいに振り返って彼の頬を両手ではさんだ。

え?

5秒。10秒。ただふれるだけのキス。彼の右手は傘、左手は鞄。

そして優子は両手で「むにーっ」と彼の頬をつねった。

「ばか。でも、ありがとう」

そう言ってにっこり笑い、優子はくるりと背を向け、颯爽と歩き出した。一度も振り返らずに。

2005.03.20 | | Comments(0) | Trackback(0) | 創 作

«  | HOME |  »

プロフィール

はまたに

Author:はまたに
FC2ブログへようこそ!

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。